月曜10時の営業・マーケティング会議。従業員50〜300名のBtoB SaaS企業で、マーケティング責任者が先週の施策結果を報告しています。

HubSpot上では、ウェビナーから86件、比較資料のダウンロードから42件の新規リードが増えています。広告のCPAも悪くありません。ところがSalesforceで商談を見ると、新規作成は3件だけ。営業部長からは「このMQL、情報収集ばかりでは?」と聞かれ、CEOからは「来月も同じ予算を入れるべきか」と判断を求められる。

担当者はCSVを出し、スプレッドシートでキャンペーン別の表を作ります。それでも会議では、どの施策を広げるか、どのリードを営業が優先するか、次回のウェビナーテーマを変えるべきかが決まりません。

短く答えると、良いマーケティング施策がスケールしないのは、成果が出た条件を次回も使える形で残していないからです。誰に効いたのか、どのタイミングで営業に渡したのか、どのフォローで商談化したのかをCRM上で追えなければ、成功は担当者の記憶で終わります。

HubSpot Japanが2024年に実施した日本のマーケティング調査でも、マーケターの86.3%が「企業は従来のマーケティングのやり方を変えていかなければならない」と回答しています。また、効率化したい業務として「データ分析」「レポート作成」が上位に挙がっています。

現場が欲しいのは、施策をもっと増やすことだけではありません。増えたリードを見て、次にどこへ投資するかを決められる状態です。

スケールしないとは、成果が増えないことではない

「スケールしない」というと、リード数や参加者数が伸びない状態を想像しがちです。しかしBtoBマーケティングでは、数字が増えているのにスケールしていないことがあります。

たとえば、ウェビナー参加者が50名から120名に増えた。広告経由の資料請求も増えた。それでも営業が追うべき順番が分からず、インサイドセールスが全件に同じメールを送っているなら、施策は大きくなっていても運用は大きくなっていません。

スケールとは、同じ施策を倍にすることではありません。どの顧客層に、どのメッセージが、どの営業フォローと組み合わさったときに商談化しやすいのかを学習し、次回の判断を軽くすることです。

ここが残らないと、毎月の会議は「先月は当たった」「今月は弱い」「次はテーマを変えよう」で終わります。施策の数は増えているのに、判断の質が積み上がらない状態です。

週次会議で止まる3つのズレ

  1. 施策ごとに見ている相手が違う

    広告は経営層向け、ウェビナーは現場マネージャー向け、ホワイトペーパーは情報システム部門向け。どれも悪い施策ではありません。ただし、施策ごとに読者と課題が変わっていると、チームに残る学習は薄くなります。月末のレポートでは「リード数」は並びますが、「どの顧客に勝ちやすいのか」は深まりません。

  2. MQLの意味が営業とマーケティングで違う

    マーケティングは「資料請求とウェビナー参加を満たした人」をMQLと見ている。営業は「導入時期と課題が見えている人」だけを有効リードと見ている。このズレがあると、HubSpotではMQLが増えているのに、Salesforceでは商談が増えません。会議では、施策の話ではなく「このリードは追うべきか」の確認に時間を使うことになります。

  3. 評価がキャンペーン単位で止まっている

    「ウェビナーAは86名参加、商談3件」「広告BはCPAが低い」といった評価は必要です。ただ、それだけでは次の判断に足りません。商談になった3件に共通する企業規模、役職、閲覧ページ、フォロー日数、営業メモまで見ないと、何を広げるべきかが分からないからです。

HubSpotとSalesforceの画面で起きていること

施策が単発で終わる会社では、ツールが入っていても判断がつながっていません。

HubSpotにはフォーム送信、メール開封、ウェビナー参加、スコアが残っています。Salesforceには商談、金額、フェーズ、失注理由が残っています。ところが、両方をつなぐ項目が弱い。キャンペーン名は入っているが、商談化のきっかけになった行動が分からない。MQLになった日は分かるが、営業が初回接触した日が抜けている。失注理由はあるが、どの訴求で入ってきたリードだったかは追えない。

その結果、レポート作成は毎回手作業になります。HubSpotからコンタクトをCSVで出し、Salesforceの商談一覧と突き合わせ、スプレッドシートで色を付ける。会議資料は作れるものの、翌月の施策設計に戻すには粒度が粗い。

ツールが足りないのではなく、会議で決めたいことに合わせてデータの持ち方が決まっていないのです。

Before / After:施策単位から条件単位へ変える

良い施策をスケールさせたいなら、「どの施策が良かったか」だけでなく、「どの条件で良かったか」まで残します。

  1. Before:ウェビナーAは参加86名、商談3件

    この記録だけでは、次回も同じテーマで開催すべきか、広告を増やすべきか、営業フォローを変えるべきかが判断できません。参加者が増えた理由と商談になった理由が混ざっているからです。

  2. After:従業員100〜500名のSaaS企業で、既存MAの運用見直しを検討しているマーケ責任者が、参加後2営業日以内の架電で商談化した

    ここまで残っていれば、次回のテーマ、広告ターゲティング、営業の優先順位、フォローメールの文面を具体的に変えられます。スケールさせる対象が、施策名ではなく「条件の組み合わせ」になるためです。

  3. After:追わない条件も決める

    資料をダウンロードしただけの学生、競合調査、対象外の企業規模、導入時期が遠いリードまで同じ優先度で扱うと、営業の信頼を失います。スケールには、増やす条件だけでなく、追わない条件の合意も必要です。

生成AI時代ほど、汎用施策は差別化になりにくい

2026年のHubSpot Japanの営業調査では、購買検討で生成AIを活用した買い手の52.4%が「当初検討していなかった製品・サービスを候補に追加した」、55.3%が「最終的な意思決定に影響を受けた」と報告されています。買い手は、営業やマーケティングに接触する前から、課題整理や比較検討を進めやすくなっています。

この環境では、一般的な課題に対する一般的なコンテンツやメールだけでは、購買プロセスの中で選ばれにくくなります。買い手はすでに比較表を作り、候補を調べ、社内説明の材料を集めています。

だからこそ、マーケティング施策は「多くの人に刺さる一般論」から、「この会社のこの状況なら、次に何を決めるべきか」へ寄せる必要があります。CRMに残すべき情報も、リード数だけではありません。どの文脈の買い手が反応し、どの情報が営業との会話に進めたのかです。

施策を増やす前に決める4つのこと

  1. 今回の施策で学びたい顧客条件

    業種、企業規模、役職、既存ツール、困っている業務、導入時期を決めます。全員に向けた施策ほど、結果の読み取りは難しくなります。

  2. MQLから営業に渡す条件

    資料請求、ウェビナー参加、価格ページ閲覧、返信内容、企業属性のうち、何を満たしたら営業が動くのかを決めます。スコアだけでなく、営業が納得できる理由まで必要です。

  3. フォローの期限と担当

    有望リードをいつまでに、誰が、どの方法でフォローするかを決めます。ここが曖昧だと、施策の良し悪しではなく、追い方のばらつきで結果が変わります。

  4. 会議で見る学習ログ

    リード数、商談数、受注金額だけでなく、商談化したリードの共通点、営業が追わなかった理由、次回変える条件を残します。レポートは報告のためではなく、次の施策を軽くするために作ります。

まとめ:施策を増やすほど、判断を軽くする

良いマーケティング施策がスケールしないのは、アイデアが弱いからとは限りません。むしろ、一度うまくいった施策ほど、「なぜ良かったのか」を残さないまま次に進みがちです。

HubSpotやSalesforceに残すべきなのは、キャンペーン名とリード数だけではありません。誰に効いたのか、営業がいつ追ったのか、何が商談化の決め手になったのか、次回は何を変えるのかです。

施策をスケールさせるとは、同じことを大量に繰り返すことではありません。施策を打つたびに、次の会議で迷うことを一つ減らすことです。

参考情報

施策結果が次の判断に残るマーケティング基盤をつくる

ConsilegyはGTM戦略設計からHubSpot・Salesforceを前提にした評価基準、営業引き継ぎ、レポート設計まで支援します。まずは直近3ヶ月の施策が、どの条件で商談につながったかを整理するところから始めましょう。

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